奥歯を失ったら、ブリッジや入れ歯やインプラントをいれなきゃダメなの?   

更新日:6 日前

 歯医者をしていると、左右両側の大臼歯を抜歯して失っている患者さんを診るのは珍しくありません。このような患者さんのなかには、咬みにくいとか飲みこみにくいとか訴える患者さんがいらっしゃいます。しかし、なかには、食べ物を噛みにくいとか、飲み込みにくいと感じずに、生活に不自由しているわけでない患者さんもいらっしゃいます。ですから、義歯(入れ歯)やインプラントなどで歯の抜けている部分を補うべきか否かの判断に迷うこともあります。


 こんなことは、世界中の歯医者が遭遇することで、欧州では、1980年代から義歯を入れないことを容認する説、「短縮歯列」(ShortenedDentalArch)も提唱されてます。


 そこで、「奥歯を失った部分をどうしようか? 抜けたままにしていても大丈夫かしら?」と迷ってらっしゃる方のために、参考になることをまとめましょう。

 まず、歯の抜けていない人の噛み合わせを右図で説明しましょう。


橙色の矢印で示しているように、上下の奥歯は左右各々4本ずつ、合計8ヶ所で噛みあって咬み合わせを支えています。この上下で相対して噛みあう2本の奥歯を咬合支持単位(オクルーザルユニット:ou)といいます。そして、歯が1本も抜けずにそろっている場合に「咬合支持単位が8」または、単に「8ou」と言い、ムシ歯、歯周病、顎関節、歯列不正の問題がなければ、左右の奥歯で不自由なく食事できる状態です。


つぎに、最初に紹介した左右両側の大臼歯を抜歯して失っている患者さんの場合を図示しました。下だけの大臼歯を失っても、上下ともに大臼歯を失って、咬合支持単位(オクルーザルユニット)は4ouです。80年代のヨーロッパでの調査によると、このように4ouが左右対称の位置に残っていれば、患者さんは歯を失った状況に適応して口の機能が維持できる場合があるとしました。







 





また、次の図は、片方の2本の大臼歯とその隣の小臼歯を1本と合計3本を失った場合で、5ouです。先のヨーロッパでの調査では、このように左右非対称に歯を失った場合に5ouになると、患者さんは咀嚼しにくく感じると報じています。


 このように、患者さんが噛みにくさを感じはじめる境目は、歯を失った位置が左右対称か非対称かで違っていますが、4~6ou 辺りにあるようです。このような調査をもとに、現在、北欧やヨーロッパ諸国の一部では、旧来の歯を失ったら速やかに補う治療方針を見直して、患者さんが日常生活に不自由ない程度に歯が残っていれば、補わないで、抜けた分だけ歯列が短くなったままの「短縮歯列」でいることが一つの選択肢とされることがあります。例えば、両側または片側の大臼歯2 本が抜けていても、少なくとも小臼歯部は噛みあって咬合支持がある場合は、その欠損を放置しても影響が少なく、咀嚼機能には問題がないとする考え方です。ただし、これらの諸国では、抜けた部分を補う処置にかかる医療費が年々膨大となっていて、この医療費を抑制するための手段として、このような考え方が広めようとしている面があることに配慮が必要です。


 何事においても、1つの原理原則が全てをカバーすることはありえません。歯科でもしかりで、ひとりひとり患者さんに応じて、歯科医の判断と患者さんの価値観を総合的に考慮して、治療のゴールを決めなくてはなりません。その意味で、可能な限り歯を失った跡をブリッジや入れ歯やインプラントで補わなくてはならないとか、必ず補わずに放置すべきであるといった、絶対的な考え方は意味がありません。患者さんのなかには歯を抜いて補わなくても、何の不自由もなく長い間暮らせる場合もあるし、そうでない場合もあります。ですから、患者さんの年齢や、歯を失った原因と歯を補って生じるリスク、全身的な健康状態、予算、通院の困難さなどを踏まえて、そして、「一人一人の患者さんが何を求めているのか?」をよく検討して、抜けた歯をブリッジや入れ歯やインプラントで補うか、それとも、補わないか、患者さんと歯科医師がよく話し合って選択すべきでしょう。